那覇のジャズスポットめぐり⑥〜ジャズライブハウス ピノスプレイス〜

  1. 那覇のジャズスポットめぐり⑥〜ジャズライブハウス ピノスプレイス〜

Columnコラム


那覇市内のジャズバーを巡り、敷居が高そうに見えるジャズの音楽体験をフランクに楽しむワークショップ「那覇ジャズまーい」(那覇文化芸術劇場なはーと、中村亮さん企画)。
自身もドラマーでありガイド役も務める中村さんが、プレイヤーとしての経験や、ミュージシャンとして関係の深い各店舗の人たちとの交流も踏まえながら、
参加者にジャズの楽しみ方や、日常的にジャズバーに親しむためのアプローチについて紹介してきた。
 
11月毎週末の3週、8日、12日、18日の3日間で開催されてきたこのイベントの最後を締めくくるのは東町にある「ジャズライブハウス ピノスプレイス」(以下「ピノス」と表記)。
開業から40年を迎えたという店内は仄暗く、ところどころで灯る間接照明の暖色がかなりムーディな雰囲気を演出する。
客席はグランドピアノとドラムをぐるりと囲むように配置されており、その距離は近い。
参加者全員が着席すると、かなりの密度になった。
 

髙雄飛さん(ピアノ)が椅子に座ると、店内で交わされていた雑談の音の中におもむろに断片的なメロディーが入り込んでくる。
鍵盤上を跳ね回るようなフレーズを繰り出したと思うと、にわかに「Georgia on My Mind」を弾き語りし始めた。
歌唱とピアノの抑揚ある絡みが一体となって客席に広がり、店内は瞬く間にライブ空間となる。
演奏後、「前座で1曲披露させてもらいました」と髙さんが一言添えた。
 

オーナーでもあるボーカルの中村瑠美子さんがマイクを手に取ると、ロマンティックなピアノの伴奏にのせて、ハスキーで伸びのある甘い声が響き渡る。
瑠美子さんがマイクとともに手にするシェーカーの刻みが、楽器の少ない2人編成の中でかなり効いている。
 
ジャズだけでなくゴスペルやブルース、さらにはアフリカンなニュアンスも含むブラック・ミュージックを感じさせる髙さんのピアノも、メロディだけでなくリズム面で楽曲と瑠美子さんの歌とを支える“骨”となっている。
その圧倒的な存在感と、瑠美子さんの唯一無二の声はバチバチに対峙しながらも、溶け合った音の塊として成立していて、そんなピノス独特の出音に観客は一気に飲み込まれた。
 

ガイドの中村さんが、先に行った「寓話」との編成の違いについて指摘しながら「今回は楽器がピアノしかなくて、ママが持っているシェーカーがドラムで言うハイハットの役割をしていて、それがかなり大きい」と説明。
さらに「ピアノはベーシストが担う部分も左手でカバーしています」と解説した。
 
ピノスを立ち上げたのは瑠美子さんと亡くなった夫のピノさんで、ピアニストだったピノさんは、ジャズはもちろん、ポップスなども含めて600曲ものレパートリーをアレンジして楽譜を残した。
「ピノスが他の店と大きく違うのは、楽曲ごとに特殊な加工みたいにアレンジが施されていて、それがとても面白いんですよ」と、中村さんが付け加えた。
 

瑠美子さんは元々ロックやフォークを歌っていたが、ピノさんと出会ってジャズを歌い始めたという。
「やればやるほど深みにはまっていきました。歌う時は、強弱を意識していますね」とジャズの歌の特徴について語ったところで、後半に突入。
 
かつて歌を習っていた先生がやっていたという、ラテンの楽曲を披露する。瑠美子さんの歌唱スタイルも特徴的で、声の強弱でハンドマイクの位置を変えながら店内での自身の声の響き方を調整しているようにも見える。
この曲では、ピアノの髙さんもスキャットで入りつつ、小気味良いリズムで時が進んだ。
 

最後は超スタンダード曲の「What a Wonderfull World」。
ゆったりと優雅に、慈愛を感じるように観客1人1人が瑠美子さんの声に心震わされているのが分かる。
大きな拍手とともに最終日の演奏が終わった……と思いきや、ここでやはりアンコール。
 
中村さんからのリクエストに、ステージの2人が少し相談して16分で刻むノリの良いラテンナンバーで応えると、会場の参加者もすぐに身体を揺らした。
軽快なビートを繰り出すピアノにのせて、瑠美子さんと髙さんとのパーカッシヴなボーカルの掛け合いも楽しく、アンコールもあっという間に終演した。
 

「ライブで音楽を聴くと、プレイしている人を感じることができます。表現している人がとにかく僕は好きで、あったかい気持ちになる。
言葉や頭だけでは理解できない、その人たちをそのまま感じられるのがこういう場所(ライブハウス)や機会だと思うんです。
これまで回ってきたように、毎日のように演奏している日常にある音楽を感じて、明日から1曲だけでも聴きに行けるくらい、少しは敷居が下がって親しめるようになったことを祈りたいです」
 
最後の中村さんの言葉に応えるように会場から大きな拍手が送られて、今回が初の試みとなる「那覇ジャズまーい」の幕は閉じた。
 
 
執筆・撮影:真栄城潤一
 
■店舗情報
Jazz Live House ピノスプレイス
住所:那覇市東町11-12清洲ビル1階 
営業時間:20:00〜3:00
定休日:月曜、火曜
チャージ:2,000円
公式サイト https://www.pinosplace.net/

最終更新日:2023.12.08

那覇ジャズまーい 音楽